スポーツあれこれ by 星野恭子

アジア選手権最終日の韓国戦を終え、サポーターに最後の挨拶をするブラインドサッカー日本代表選手とスタッフ陣

“ブラサカ”日本代表、パラリンピック初出場ならず。2020年へ!

※写真上:アジア選手権最終日の韓国戦を終え、サポーターに最後の挨拶をするブラインドサッカー日本代表選手とスタッフ陣

 リオデジャネイロ・パラリンピック予選を兼ねた、「IBSAブラインドサッカーアジア選手権2015」が9月2日から7日にかけて、東京の国立代々木競技場フットサルコートで開催されました。日本代表は残念ながら、リオ出場権を得られませんでした。でも、魚住稿監督のもとで4年間、「総力戦」でつくりあげてきた堅守速攻という「日本のサッカー」はしっかりと見せてくれました。徹底して磨き上げた1-2-1のダイヤモンド型の守備は、今大会も大きく崩されるような場面は一度もなく、失点は初戦の中国に喫した1点だけでした。ただ、この「1点」が重かった…。

 日本は「自力でのパラリンピック初出場」の機会は逃しましたが、すでに20年東京大会には自国開催枠での出場が決まっています。今大会も重くのしかかった得点力不足という課題をなんとしても克服し、東京大会では初出場チームとして、世界をあっと言わせる活躍を見せてほしいと思います。

 以下は、日本代表を中心としたアジア選手権のまとめです。

(9月6日付「ノーボーダースポーツ」掲載記事より一部抜粋して改稿・加筆)

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・ 9月2日: 「IBSAブラインドサッカーアジア選手権2015」が東京・渋谷で開幕した。大会は来年のリオデジャネイロ・パラリンピック予選を兼ねており、日本(世界ランキング9位)のほか、中国(同5位)、イラン(同12位)、韓国(同14位)、インド(同28位)、マレーシア(同30位)の全6カ国が参加し、総当たりの予選リーグを経て、順位を決定する。上位2カ国がリオ出場権を獲得する。

 日本はこの大会、世界ランキング上位の国から順に対戦。初戦はアジア選手権4連覇中の中国だった。日本にとって過去の対戦で引き分けが最高という強敵だが、前半は自慢の守備が機能し無得点に抑えた。だが、後半に失点し、0-1で敗戦。魚住稿監督は、「ほんのちょっとしたミスで、アンラッキーな試合だった」と話し、選手たちも口々に「悔しい」と振り返った。

・3日: 2戦目のイランにも日本はこれまで未勝利。フィジカルで勝る相手の猛攻をよくしのぎ、フォワードの黒田智成や川村怜が果敢に攻め込むも0-0で引き分けた。この日までで日本は勝ち点1で暫定5位。魚住監督は「(日本の持ち味である)いい守備からいい攻撃につなげることを考えていたが、引き分けは厳しい現実」と振り返った。監督自身が「世界一美しいダイヤモンド型」と自負する、日本の1-2-1の守備陣形は流れの中で大きく崩されることはなく、またイラン戦は早い時間からラインをあげ、攻撃的な意識の高さもうかがえただけにスコアレスドローは残念だった。

・4日: リオ出場には残りの3試合で全勝が最低条件と追い込まれた日本。3戦目は長年のライバル韓国と対戦。前半に黒田がフリーキックから待望の先制点を挙げると、後半には川村が加点。2-0で勝利し、暫定3位に浮上する。監督は、「開始5分はつくりあげてきたディフェンスをしっかりと確認し、確認できたところでスイッチを入れ、一気に攻撃にいくというテーマで臨んだ」と試合プランを説明。その通りの展開で、貴重な勝ち点を挙げた。

・5日: 勝利しかない日本の相手はアジア選手権初出場のインド。黒田が前日につづき先制すると、川村が4得点と大活躍。インドに5-0で快勝し、リオ行の切符獲得に望みをつないだ。川村は、「(リオに行くには)目の前にある試合に勝つしかない。日本が積み上げてきたサッカーを全部ピッチ上で表現したい。そうすれば、必ず道は開けると信じています」と力強く話した。

・6日: 予選最終日。ここまで3勝1分(勝ち点10)の中国、2勝2分(同8)のイラン、2勝1敗1分(同7)の日本、2勝2敗(同6)の韓国まで、リオ切符(2枚)の可能性が残されていた。1試合目でまず、中国がインドに勝利し、勝ち点13で1枚目の切符を手にした。

 日本の命運がかかった2試合目のイラン-韓国戦は、イランが引き分け以下に留まり、3試合目で日本が勝利すれば、2枚目の切符を手にできるはずだった。だが、地力に勝るイランが韓国に4-0と快勝。日本のリオへの道はここで閉ざされた。

 雨が強まる中、キックオフとなった日本―マレーシア戦。約900人のサポーターが盛大な「ニッポンコール」で日本代表を迎えた。リオへの可能性が消え、モチベーションを保つことが難しいだろうなか、ピッチに立った日本は、豪雨のため途中13分半も試合が中断するようなピッチコンディションでもあったが、川村が前後半に1点ずつをあげ、マレーシアに勝利した。

 試合後、川村は、「こんなにもパラリンピックという道は険しいのかと思った。多くのサポーターと一緒に戦ってきたので、最後は本当に気持ちで負けないように…。1点目は日本中のみんなで取ったゴールだと思う。得点できてよかった」と声を振り絞った。

 魚住監督は、「この4年間、選手はひたむきにリオへの出場を目指してやってきました。そして、そんな選手たちをスタッフは本当に懸命に支えてくれ、また本当に多くの方々に我々は支えられ、ここまで歩んできました。そのなかで最後、結果でお返ししたかったが、それが届かなかったことは私が責任を痛感するところです」と唇をかんだ。

・7日: 大会最終日。日本は予選リーグ3位(3勝1分1敗)で、韓国との3位決定戦に臨んだ。前後半でスコアレスドローなり、PK戦に入ったが1-2で敗れ、大会4位に終わった。イラン対中国となった決勝は前後半で0-0、さらに5分ハーフの延長戦も無得点のままPK戦となり、1-0でイランが制し、初優勝した。マレーシアが5位、インドが6位だった。

 なお、来年9月7日に開幕するリオ大会出場権はイランと中国が獲得した。日本は20年東京大会に自国開催枠での出場が決定している。

<3位決定戦後のコメント>

▼魚住稿監督

選手たちはこの4年間、本当にひたむきにやってきました。多くの人たちの助けを受け、日本チームはここまで強くなれました。リオへの道は昨日で途絶えてしまいましたが、今日はお世話になった皆さんへの恩返しの気持ちをこめて、自分たちがつくりあげてきたサッカーをこのピッチで最大限に見せようと選手を送り出しました。2016年リオを目指しながら、20年も見据えてきました。この(悔しい)思いをいい形にかえて、ブラインドサッカー界全体で20年にメダルを狙えるチームにつくり上げていきたいと思います。

▼今大会2得点のエース、黒田智成選手

僕がブラインドサッカーを始めたとき(2002年)、日本でこんな大会が開かれるなんて夢にも思っていませんでした。多くの方の努力に感謝の気持ちでいっぱいです。今の段階で日本は、世界と戦えるチームになってきているが、世界で勝ち切るチームにはまだなれていない。まずは国内から底上げをしてレベルアップしていく必要があると思います。

▼大会7得点と活躍、チーム最年少の川村怜選手

今大会で得点できたことは自信になりましたが、やはり中国やイラン相手に点を取れる選手にならないと、もっと日本の勝利に貢献できる選手にならないといけないという思いです。

▼落合啓士主将

4年間積み上げてきたディフェンスや点を取りに行くときのラインアップなど自分たちのパフォーマンスは試合で出せたと感じています。ただ、勝ち切れないところに課題があった。5年後に向けて、もっとブラインドサッカーを広げることが必要。見えない人1人に対し、見える人が5人いれば、ブラインドサッカーはできる。どうしたら分からなければ、僕が全国に飛びます。

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<ブラインドサッカーアジア選手権 2015>

[日本の戦績]

・1次リーグ: 対中国(●0-1)/対イラン(△0-0)/対韓国(○2-0/得点者:黒田智成、川村怜)/対インド(○5-0/黒田智成、川村怜4)/対マレーシア(○2-0/川村怜2)

・3位決定戦: 対韓国(●0-0 PK1-2)

[予選リーグ戦順位]

1位:中国(勝ち点13/得失点差9)/2位:イラン(勝ち点11/得失点差19)/3位:日本(勝ち点10/得失点差8)/4位:韓国(勝ち点6/得失点差0)/5位:マレーシア(勝ち点3/得失点差-9)/6位:インド(勝ち点0/得失点差-27)

[順位決定戦結果]

決勝:●中国0(PK0-1)0 ○イラン/3位決定戦:●日本0(PK1-2)0 ○韓国/5位決定戦:○マレーシア1-0 ●インド

[最終順位]

優勝 イラン(*)/2位  中国(*)/3位 韓国/4位 日本/5位 マレーシア/6位 インド(*)リオデジャネイロ・パラリンピック出場権獲得

(文・写真:星野恭子/9月6日付「ノーボーダースポーツ」掲載記事より一部抜粋して改稿)

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